☆☆☆ 小王子 リユ  番外編01


 リユの過去 〜ある日の午後〜シリーズ?
 その1 午後の紅茶

「いーかい? 知ってた? アレを飲むと大人になれるんだよ?」
 青年にしては、やや線の細いシュンガーが、穏やかに微笑みながら諭していた相手は、幼児なリユだ。
「ほんとっ!?」
 リユは、どきどきと高鳴る胸を押さえ込んで、期待に弾んだ声を上げた。
「お兄ちゃんみたいなっ!?」
 ・・・。
 気持ちの良い昼下がりである。兄弟仲良く午後の紅茶を楽しんでいる、そんな時に、ふと兄シュンガーは、魔が差してしまった。
「飲んでみるかい?」
 とろけてしまうくらい、顔がゆるむ。
「うんっ!! いいのっ!?」
 元気いっぱいなリユ。そんないたいけなリユを、兄である自分を絶対的に信用しているリユを、もてあそんではいけない・・・。わかっているけど、ああ、わかっているのだけれど・・・。
「はい」
「わぁい、ありがとお!! ボク、飲むね!!」
 ああ、手が勝手に・・・。こんな時は身体が意思を無視して動いているような、そんな気持ちになる。
 シュンガーは結局、はたから見ればすんなりと、リユにコップを手渡した。
 リユはそれを両手で大事に持ち、嬉しそうに覗き込んでいる。満面の笑顔だ。
 ああ、リユはなんて純真なんだろう・・・。良心が・・・すごく、痛む・・・。でも・・・。
 ぐいっ!! ・・・ごくごくごく・・・。
「・・・ぷはぁっ!!」
 幼児とは思えないような飲みっぷりであった。それはまさしく、世に一気飲みと言われているアレだった。
「・・・どお? ねえ、お兄ちゃん。ボク、大人になった?」
「え・・・えっとぉ・・・」
 いつもより、格段に頬が赤い。まるで、全力疾走してきた後のような赤さだ。
 それに期待に目をきらきら輝かせながら訊いてくるのである。しかも、何故か・・・というか、やはり・・・というか、目が据わっているような・・・。
「ねえ、どお??」
「ああ、うん。そうだな・・・」
 曖昧に濁しつつ、シュンガーは目を逸らした。まるで、頑張って考えてでもいるように、唸ったりしていた・・・が。
「はれ・・・?」
 カクン。よろよろ〜・・・とリユがふらつき始めると、とうとうシュンガーは、我慢の限界というように、腹を抱えて笑い始めた。もう既に涙まで流していた・・・。
「あっはっはっはっは!!」
 と、リユの方を指さし転げ回るように笑い続けていた。
「お兄ぃ〜〜ちゃ〜〜〜ん??」
 目も回ってきたリユは、何がなんだかわからなくなったが、とにかく兄に助けを求めようとした。
「あっはは、あは〜は、はっくく・・・!!」
 よたよたと近づいて来るリユを前に、シュンガーはよりいっそう笑いが止まらなくなる。
 床にへばり付き、堪えようとする度に失敗して爆笑してしまう。
 そのおかげでか、苦しげに呼吸まで乱れている。
「お兄ちゃ〜〜〜ん」
「あははは!! く、来るな、リユ・・・!!」
「お兄ちゃ〜〜〜〜んっ」
「あははははっ!!」
 その後、リユが力尽きて沈黙するまで彼は笑い続けたという・・・。


* * *
←前  次→